2021年5月6日木曜日

「脳科学とAIで心の不安に打ち克つ」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 うつ病のAI応用治療が始まっていることを知っていただきます。
 5年後には有効な診断・治療法が実用化されそうです。
ねらい:
 うつ病の診断・治療法の早期実現期待しましょう。
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本項は、学士會会報2021ーⅢ号に掲載された川人光男
ATR脳情報通信総合研究所所長の書かれた
「脳科学とAIで心の不安に打ち克つ」のご紹介です。

私は、2021年1月18日の当ブログで
「うつ病は、重大な疾病なので、総力上げてAIで研究すれば、
有効な治療法が確立できるはずだ」という主張をしました。

私は、知らなかったのですが、
そのような研究は進められていた、ということです。

本論文で分かったのですが、
私の前掲ブログでの主張に一部誤りがありました。
それは「1万件くらいの症例データを集めて解析すれば、
有効な治療法が判明するはずだ」という点です。
有効な治療結果が得られたという症例がほとんどないのです。
それでは解析のしようがありません。

もっと基礎的な面でAIが活用されているのです。

1.精神疾患の患者は全疾患中1位
 日本の主な精神疾患(統合失調症、気分障害、ストレス障害など)
 の患者数は350万人に達し、
 さまざまな疾患の中で1-2位を占める。
 
 生活の質が低下した障害生存年数を加味した障害調整生命年では
 2030年にはうつ病が全疾患の中で1位になる。
 その社会経済損失は世界で250兆円である。

 因みに、コロナ禍で米国ではうつ病の患者が倍増、
 日本では昨年夏以降に自殺者数が増加し、
 昨年10月だけでそれまでのコロナ死亡者数を上回った。

2.精神疾患は5大疾病に算入された。
 2013年の第6次医療計画で、
 従来の、ガン、心臓疾患、脳卒中、糖尿病に加えられた。

3.うつ病診断法は確立していない
 ガンでは遺伝子検査、心臓疾患では心電図、糖尿病では血糖値など
 生物学的・生理学的検査とバイオマーカが、
 診断と治療選択に重要な役割を果たすが、
 うつ病では、そのような方法がなく、医師の問診により判断される。
 
 複数の医師の診断がどれほど一致するかを評価する「カッパ係数」は
 僅か0.28しかない。

4.うつ病の治療も医師の判断任せ
 うつ病原因は多岐にわたるが、
 原因別に適合する治療法は確立していない。

 したがって、名医にかかれば治癒できるかもしれない、
 という状態なのです。
 でも、天皇家でもダメなのですから、「名医」は期待薄ですね。
 
5.脳科学に基づく精神医学の研究
 米国では、2012年にRDoCプロジェクトで、
 遺伝子、脳活動、生理学的指標に基づく診断の研究がされた。
 日本では、2018年からの戦略的国際脳科学研究推進プログラムで
 その前段の2008年からの研究も引き継ぎ、
 多数の神経科学者、精神医学者、AI技術者が協力して、
 複数の精神疾患の脳データベースと脳回路マーカ、革新的治療法を
 研究している。

6.新しいMRIによる診断法
 脳を数百個の領域に分割しその相互の信号の時間相関を計測する
 fMRIが開発された。
 これと実際の疾患状態とを組み合わせて開発する「脳回路マーカ」が
 実用化されつつある。
 fMRIで測定すると、疾患の状態が診断できる。
 うつ病の「脳回路マーカ」のカッパ係数は、
 精神科医のそれを上回るところまできている。

7.fMRIを活用した治療法
 fMRIで得られた情報を解析し、
 リアルタイムでフィードバックする方法が開発された。
 この方法は、本人が意識しないで直接脳内の活動に変化を与える。
 好き嫌いの増減、自信の増減、
 恐怖記憶による恐怖反応の低減を実現できた。

 統合失調症、うつの脳回路マーカで判明している
 異常な機能結合状態に対して
 それが健常方向に自発的に揺らいだ時に報酬を与える
 ニューロフィードバックを行う仕組みを開発し、
 有効な結果がえらえることを実験で確認している。
 
8.今後の展望
 これらの技術を実用化する動きも出ています。
 川人所長が主導する株式会社XNef(エックスネフ)が
 2017年に設立されました。
 
 今年中には、
 うつ病の診断補助に使える脳回路マーカの医療機器プログラム
 としての承認申請を行う予定である。
 
 5年後には、うつ病の診断補助マーカがサービスインして、
 層別化マーカによって治療選択のための客観指標を提供でき、
 ニューロフィードバック治療が選択肢の一つになる。
 
 10年後には、複数の精神疾患と発達障害で、
 このような技術が役立っていることを目指している。



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