2019年4月17日水曜日

「団塊の世代」の感想

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 堺屋太一さんを偲び「団塊の世代」を読んでの
 感想をまとめました。
ねらい:
 あらためて氏の素晴らしさを認識しましょう。
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団塊の世代の初版は1976年11月ですが、
2005年3月に文庫版が出ています。
今回私はそれを読みました。
(初版当時は読んでいません)


その文庫版の「新版に寄せて」の冒頭をご紹介します。
氏の自慢話にお付き合いください。
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新版に寄せて  30年振りの再会

小説「団塊の世代」の文庫の版が発行されるというので、
あらためて読み直して見た。
そしてそこに措かれているのが20年後の現実に合っており、
古さを感じさせないのが歓しかった。

例えていえば、30年振りに出会った昔の恋人が、
若々しさを保っていてくれたような喜びがある。

それ故、この新版の刊行に当たっても、ひと言も変えなかった。
ここで30年前の予測と執筆環境を味わって頂きたい。
「団塊の世代」は、私の小説としては3冊目、
予測小説としては「油断!」に続く第2作だ。

この小説を執筆したのは、
1975年の夏から翌76年春にかけての1年間で、
月刊「現代」誌に連載したものである。

この小説は、主題も構成も、
文学史上類例のないものだろう。
全体は4話だが、4つの物語の舞台は、

執筆当時から7、8年先の80年代前半からはじまり、
80年代後半、90年代中葉、2000年と進む。

だが、登場する人物も、場所も、生じる事件も
まったく関係がない。

共通しているのはただ一つ、主人公がみな、
1947年から49年に生れた「団塊の世代」に属することだ。

これは、年齢を加えて社会的地位も、
生きる世の中も変化する「一つの世代」を描いた物語である。

従って、4つの物語に登場する主人公たち
――第1話の富田繁樹も、第2話の白石清志も、
第3話の野坂良雄も第4話の福西裕次も、みな同年輩、
2005年の今頃50代後半になっているはずである。

だが、この小説の最大の特色は、
私の開発した予測小説という手法にある。

予測(または近未来)小説というのは、
精密な事実分析の中に
「あり得るべき事件――テーマ・マター」を挿入した場合、
どんな状態が起るかを可能な限り正確に予測し、
具体的な人間ドラマ(つまり小説)で表現するものだ。

 「あり得るべき事件」と正確な予測に限られる点で、
自由奔放に想像力をはばたかせる空想科学小説(SF)
とは本質的に異なる。

第2次世界大戦後、大いに進歩したものの一つに、
経済社会の分析技術がある。
統計の拡充、情報の蓄積、IO (投入産出)理論の開発、
マルコフ過程などの数学の進歩、
そしてコンピュータ技術の普及などによって、
世の中の仕組みと仕掛けがよく分かるようになった。

予測小説という手法が可能になったのも、そのお蔭である。
例えば、世界最初の予測小説である拙著「油断!」は、
ようやく実用化されるようになったコンピユータで行った
1973年当時の日本経済のIO分析をもとに、
中東からの石油輸入が途絶えた場合(テーマ・マターの発生)
の影響をマルコフ過程の手法で算出したものである。

 「油断!」は、折からの石油危機に煽られて大評判となった。

(以下省略)

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すべて予測が当たっているような言い方をされていますので、
あえて言わせていただきますと、
以下の2点は予測と違っていました。
1)1980年代後半のバブル狂乱が起きたこと。
2)その後デフレになったこと
 (小説ではインフレになっています)
団塊の世代が不遇であることは変わりませんが。
ご承知のように?「団塊の世代」は以下のような4話構成で、
団塊の世代の将来を予測しています。

第1話 与機待果
 舞台80年代   
 富田茂樹 - 第一話主人公。A電機工業社長室企画課長。団塊の世代。   
 出世コースに乗り、A電機工業の新規事業・余剰人員対策としての
 コンビニ進出企画に携わるが、
 後に自身がコンビニ店長として出向させられた。

第2話 3日間の反乱
  舞台は80年代
  白石清志 - 第二話主人公。
  K自動車工業総務部総務課付課長。団塊の世代。 
  藤尾泰佑 - K自動車工業総務部次長。実質的主人公
  上層部に直言する気骨の持ち主で中堅以下の社員の人気を集める。
  関東工場跡地売却反対派で上層部(銀行出身の進駐軍)
  に反旗を翻すが失敗して辞職。

 注:前掲の「新版に寄せて」で、
  日産にゴーン「進駐軍」が来たことは予測に合っている、
  と述べておられます。

第3話 ミドル・バーゲンセール
  舞台は90年代中ごろ
  野坂良雄 - 第三話主人公。N銀行調査第三部副長。団塊の世代。
  銀行はミドル層「強化」対策として、異業種との人事交流を始めた。
  自らもマイナ百貨店に出向させられる。

  大園美貴 ( N銀行調査第三部女性行員。京都大学経済学部卒業)
  が活躍する場面が描かれている。
  女性活躍のハシリですね。


 第4話 民族の秋   
  舞台は1999年   
  福西裕次 - 第四話主人公。総理府老人対策事業担当参事官。   
  1948年生まれの団塊の世代。   
  老人対策事業の予算確保に奔走するが、   
  間もなく自分もその対象になることに気づき愕然とする。

この予測小説という手法は左脳的な仕事です。
ところが堺屋太一さんは、右脳的な
小説家としてのストーりの構成や運びも一流です。
やはりスゴイ方です。

その筆力で読者を捉えるのですが、
テーマは楽しいことではなく、いわば「警世の書」です。
的確な指摘でしたからマスコミの話題にはなったと思いますが、
こういう本を多くの人が読んだのだろうか?と疑問です。


発行部数はどのくらいだったのでしょうか?
多少調べてみましたが分かりませんでした。

それはともかく、
素晴らしい小説家としての才を示されている文をご覧ください。
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しかし、その次の週の火曜日に聞かされた二人目の人事異動は、
野坂良雄にとって、もっと不愉快だった。
その日の昼前、辞令を見せに来たのは、大園美貴だったからだ。
そしてそれもまた、
「頭取室調整役付を命ず」というものだったのである。
〈一体、何を企んでやがるんだ〉
野坂は、目の前の大園美貴にではなく、
頭の中に画いた鈴木の陰気な顔と佐野の小さな身体とに、
そう毒づいていた。

 
「終りまでお手伝いできなくって申しわけありませんけど……」
野坂の表情を敏感に読みとったのか、
美貴は小さな顔をいくぶん赤らめていた。
「いやいや、もう大丈夫だよ。
君のお陰でほとんど完成してるからね」
野坂は、慌てて笑顔を作って、
「それにしても、部長の後任もまだ来ないうちに、
佐野課長も君もいなくなるじゃ、調査第二部も心細いなあ」
といって、その場をつくろって見せた。
だがこの言葉に対する美貴の反応は、ちょっと意外なものだった。

 
「部長の後任……」
美貴は、訟し気に小首をかしげながら、
「多分、もう来ないのと違いますか。部の統合で……」
と、低い声でつぶやいた。そしてそのあとには、
困惑と悔悟と軽蔑の影が浮んでいた。

 
野坂良雄は、20年余の銀行勤めの中で、
はじめて激しい不安に襲われた。
目の前にある大園美貴の白い顔、脳裡に浮ぶ鈴木と佐野の姿、
して佐野と村瀬から聞いた言葉の数々、
そんなものがぐるぐると回っていた。
〈この小娘さえ知っていることを、俺は知らされていなかったのだ〉
という屈辱感と怒りとの中で、
ようやく事の本質が野坂にも分りはじめていたのだ。

 
 だがヽそれが具体的な姿をとって、
野坂良雄自身の身に降りかかつて来るまでには、
まだ2カ月ほどの時間があつた……。
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