【このテーマの目的・ねらい】
目的:
トヨタの生産現場での「自工程完結」アプローチを
学んでいただきます。
トヨタのスタッフ部門の業務改善アプローチを知っていただきます。
それが日本の低労働生産性の改善に役立つかどうかを
考えていただきます。
ねらい:
自工程完結アプローチの有効性について考えていただきます。
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「自工程完結」とは、自工程の不備を次の工程に持ち込まない、
「不備は検査工程で見つけるからよい」と思ってはいけない、
という意味です。
著者は、トヨタの副社長も務められた佐々木眞一氏です。
自ら改善を主導された方です。
分業をしていると、ややもすると上述のようなことがよく起きます。
(上野)
「外注依存していると、
自工程の不備を次工程の他人がリカバリしていますが、
他人のことなのでそのまま不備発生状況が温存される」
ということを私もこれまでの知見から痛感しています。
したがって、「内製化せよ」という主張もしているのです。
トヨタの生産領域でそういうことがあって
それを改善したという事例が前段で述べられています。
トヨタの生産現場でもそういうことがあったのか、
ということはやや驚きでしたが、
どちらかと言えばその改善は当たり前のことです。
私の関心事は、
本書の主テーマであるスタッフ領域で
どう改善が行われたのかという点でした。
この改善は
「最悪の日本の低労働生産性」の改善に直結するからです。
「自工程完結」も基本的には業務の改善、業務の標準化です。
そこに「後工程を意識して業務を見直す」
という視点が加わるところが「自工程完結」のミソなのです。
事例はこういうものでした。
事例1
メンテナンスや故障、事故などに対応するための
補給用部品を共販店を通じて販売店や修理業者へ供給する
国内部品部の仕事の改善です。
体制の縮小に対応するための改善でした。
はじめは業務仕分けをして業務のカットをしました。
20件年間600時間の削減を達成しました。
次いで改善に取り組みました。
その例は、共販店別売上高計画のの策定業務です。
この売上計画は、
国内部品部として共販店の自社計画(これが後工程です)
のベースにするために作成していました。
細かな品目積み上げをやめ
大括りで売上高目標を提示するように変えたことで
100時間の工数が50時間になりました。
他にも似た事例が紹介されています。
1年間で合計30件年間600時間の削減が実現しました。
あるときには必要だったものをそのまま踏襲しているという
よくあるケースです。
現時点で「ないと困るのか?」と後工程に問うことによって
改善や削減が可能となるのです。
以下の記述がありました。
「やめても困らない資料を作っていたことで、
部内も非効率になっていたけれど、
余計なものを作ることで、
実は後工程の担当者や共販店も非効率にしていた
ことに気付いたと言うのです」
事例2
160名が所属する部品事業部の
国連向け部品手配業務の改善です。
お客様が見えづらく
お客様に対する意識を高めるための取組みを
進めていきました。
国連機関にはトヨタが直販しています。
必要な補給部品については
国連から直接部品事業部に
オーダーが入るようになっています。
他の代理店経由取引であれば、
オーダーはいわゆるEDIシステムで自動化しているのですが、
国連との取引は手作業でした。
非常に複雑な仕組みだったようです。
オーダー手配データは17項目ありました。
この作業を分析整理して標準化し
詳細なマニュアル作りを成功させました。
著者はこういう解説をされています。
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部品事業部では、「仕事の質改善」「仕事の質向上運動」
といった呼び名で、取り組みを進めています。
その中で、「自工程完結」的な考え方やポイントの一部を、
自分たちの業務改善に合うように取り入れているということです。
それでもまったくかまわないと思っています。
チームで取り組みを進めているのは、
一人ひとりが仕事の改善を図るだけでなく、
チームでやることによっていろんな知恵が出てくることを
期待してのことです。
チームワークのもとで仕事をし、
それが業務改善につながっていくサイクルができ上がってきた、
と語っていました。
大きな変化は、若い社員にも問題に対する当事者意識が
生まれてきていることです。
誰かがやってくれる、ということではなく、
自分たちがやるんだという意識が目に見えて
強くなったそうです。
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著者は
スタッフ部門の仕事における「自工程完結」(改善業務)
のポイントを以下のようにまとめておられます。
解説は上野が付けています。
1.「目的・ゴール」をはっきりさせる
これがトップということは我が意を強くします。
私どもが主張する「「目的・ねらいの重視思考」は
まさにそれです。
2.「最終的なアウトプットイメージ」をはっきりさせる
これは1.の延長です。
私どもは「目的・ねらいの定量化・具体化」と言っています。
3.「プロセス/手順」をしっかりと考え、書き出す
1.がWHY、2.がWHAT、この3.がHOWです。
WHY、WHAT、HOWと来ています。
4.次の「プロセス/手順」に進んでよいかを判断する基準を決める
工程の完了基準を定めるということです。
これは大事ですが、
生産工程と違って業務領域ではこの徹底は難しいですね。
でもそれがいい加減なために
システム開発では頻繁に手戻りが発生しているのです。
5.正しい結果を導き出すために「必要なもの」を抜け・漏れなく出す
生産領域ではこれを「良品条件」と言っているようです。
標準化で規定する業務標準のことのようです。
上記2.の詳細化ということでしょう。
6.仕事を振り返り、得られた知見を伝承する
振り返りは完全動作の基本です。
自工程完結のメリットは以下の10項目だそうです。
一般的な標準化による業務改善の効果と
組織横断的な改善による効果とが含まれています。
10項目の多くは前者でも実現できる効果です。
後者に〇を付けました(上野)。
この効果は大きいものです。
「自工程完結」は後工程との関連を意識した改善ですから
このメリットが挙げられるのは当然でしょう。
ここに「自工程完結」の特色があるのです。
〇1.部分最適がなくなる
これは非常に大事なことです。
2.上司が進捗確認できるタイミングを作れる
3.上下左右のコミュニケーションが深まる
〇4.各部署の固有の強みを最大限に活かせる
5.部門内の情報共有が進む
〇6.会議が減る
〇7.理不尽なところが見える
これも見える化の大きな効果です。
8.失敗が減り、妥協がなくなる
9.生産性が上がる
10.モチベーションが上がる
総括しますと、
大分前にトヨタのスタッフ部門の改善は遅れていると
ある識者が仰っていましたが、
漸くそこに火が点いたということです。
一般的な標準化による業務改善との違いは
後工程を意識して、後工程と連携した改善する
という点です。
この着眼は生産現場の改善からの類推で、
当然といえば当然ですが、
縦割り分業を旨とする多くの日本企業にとっては
非常に有効なアプローチといえます。
後工程の最後はお客様ですが、
お客様視点を含めた「自工程完結」のアプローチは、
日本の生産性改善に貢献できるものです。
みんなで頑張りましょう!
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