2024年1月16日火曜日

「睡眠の謎に挑む:原理の追求から社会実装まで」

[このテーマの目的・ねらい】
目的:
 睡眠の謎に迫ります。
 かなり睡眠の謎が解明されつつあることを知っていただきます。
 不眠状態だと思っている方に朗報があります。
ねらい:
 解明された成果を活用しましょう。
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本項は、学士會会報2024ーⅠ号に掲載されました
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長柳沢正史教授の
寄稿のご紹介です。
日本の睡眠医学は世界の最先端を走っているのだそうです。
頼もしいことです。

1.睡眠に関して分かっている現象
1)多くの動物は眠る
・魚類も含めたすべての脊椎動物は眠る。
・陸生哺乳類の睡眠時間は、2時間から20時間近くまでばらついている。
・昆虫、線虫、イカ、タコ、貝類などの無脊椎動物も眠る。
・脳(中枢神経系)を持たないクラゲも眠る。
・そのことから、睡眠は脳よりも先に発生していることになる。

2)睡眠不足の疫学調査結果
・睡眠不足は、
 死亡率と疾病リスク(メタボ、うつ病、認知症)を高める。
 最善は7時間睡眠の場合である。
・重度のメタボリック症候群の場合、運動・食事療法をいくら頑張っても
 睡眠不足だとメタボは改善しなかった。
・不眠はうつ病の発症率を3倍高め、認知症の発症率を4倍高めた。
・4時間睡眠を2週間続けたら、内臓脂肪が11%、体重が0.5キロ、
 1日の摂取カロリーが308キロカロリ増えた。

3)睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある
・レム睡眠中は、筋肉が完全に弛緩し(レム脱力)、体が休息する。
 しかし眼球は素早く動き(Rapid Eye Movement)
 記憶の整理や定着が行われている。
・ノンレム睡眠は覚醒から入眠するとまず現れる。
 体と脳が休息している。
 眠りの深度は幅がある。

4)睡眠の時間経過
・睡眠の状態は以下の図のように変化する。
・一般にはノンレム睡眠とレム睡眠は交互に発生している。

以下は上野説
・1サイクル90分という説もありますが、絶対ではありません。
・長時間睡眠すると、後半で新たな事象が発生するのであれば、
 睡眠は長時間でなければならないことになります。
・しかし、1-2時間で繰り返すのであれば、
 連続しなくても睡眠総時間がそれなりにあればよい
 ということではないでしょうか。
・下の図をみても後半で別の現象が起きている
 ということはないようです。
 特に高齢者の場合はそうです。

・本寄稿文の後半に、「不眠を訴えた高齢者の睡眠を測定したところ、
 レム睡眠とノンレム睡眠が発生しており、
 途中覚醒していても問題ないと説明したら
 不眠(正確には不眠不安)は解消した」
 という例が紹介されています。

・つまり、
 途中目覚めがあっても、
 総睡眠時間が確保できていれば問題ない
 ということです。これで安心です。

・また、「昼寝は15分程度がよく、
 それ以上はかえって疲れてしまう」という説がありますが、
 こう考えられます。
 15分程度の短い睡眠だと、ノンレム睡眠だけで終わり、
 これで肉体的疲労は回復しますが、脳機能の修復は行われません。
 
 ところが、
 1時間とかの中途半端な時間だと、レム睡眠の途中になります。
 脳機能の修復が中途半端なところで中断されますので、
 脳機能の再起に手間取るのだと思われます。
 
 私はよく昼寝をするのですが、1時間半くらい寝ます。
 目覚めでぼうっとしているということはありません。
 脳がスッキリして仕事がはかどります。
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2.分かっていないこと(証明されていないこと)
1)睡眠の機能:なぜ眠らなければならないのか。
 休まないと壊れてしまうということでしょうが、
 そのことは証明されていないのだそうです。
 そうなんですかね?

2)睡眠の調節:眠気の正体とは? 
 種ごとに異なる睡眠時間はどのように決まっているのか。
 長く起きていると眠気が生じ、眠ると解消される。
 この眠気の正体も、睡眠と覚醒の調節機能も解明されていない。
 (上野注:著者たちは、かなりこの解明を進めています。後掲参照)

3.最近の解明事項
1)睡眠覚醒スイッチ
ここ10年の睡眠医学の成果は
「脳の各所に”覚醒を促進する神経細胞群”と
”睡眠を促進する神経細胞群”があり
それぞれネットワークを形成して互いに抑制しあっている。
脳内でどちらかが優勢になると、覚醒と睡眠のスイッチが切り替わる」
と分かってきたことである。

2)覚醒を促す物質
1998年に著者たちが発見した「オレキシン」は、
スイッチを覚醒側に切り替える最終的な要因である。

3)睡眠を制御する物質
10年ほど前に著者たちが以下を解明しました。
「大脳皮質で起きる”シナプスのたんぱく質のリン酸化”が
睡眠の質を制御し、
視床下部で起きる”シナプスのたんぱく質のリン酸化”が
睡眠の量を制御している」

4.解明事項の社会実装
1)睡眠薬
オレキシンの働きを抑えれば睡眠が促進されます。
そこで、そのオレキシン拮抗薬が開発されています。
(現在臨床試験中)
この睡眠薬は、従来の睡眠薬と異なり依存症を発生させない、
また、アルツハイマー型認知症をそくしんするということもない、
という利点があります。

2)睡眠検査キット
従来方式だと、1晩入院し5万円かかり、全身に多数の電極をつけるので
正常な状態での測定が困難です。
そこで筆者たちは筑波大学発ベンチャーで、
自宅で睡眠脳波を測定できる装置インソムノグラフを開発しました。














この睡眠検査は、一部の医療機関やウェブで申し込むことができます。
申込後、睡眠質問票に回答すると、自宅に機器が届くので、
土日を含む2晩、あるいは5晩連続で、自宅で睡眠を計測します。
機器が脳波データをクラウドに転送します。
機器をコンビニから返却すると、
医師のアドバイスのついた睡眠評価レポートが郵送かウェブで届きます。

素晴らしい最先端のビジネスモデルですね!!

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