2023年7月24日月曜日

「国際刑事裁判所の機能と課題」ウクライナはどうなる?

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 国際刑事裁判所なるものがあることを知っていただきます。
 その現状と限界を確認いただきます。
 その活動に、日本は年間30億円出していることを
  知っていただきます。
ねらい:
 これからはどうなるのでしょうか?
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本項は、学士會会報2023-Ⅳ号に掲載されました
中央大学法学部特任教授、元国際刑事裁判所裁判官尾崎久仁子氏の
寄稿のご紹介です。











本項もあまり知らないことでした。
この寄稿の要旨はこのように紹介されています。
ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪は
「コア・クライム」と呼ばれる。
コア・クライムを犯した個人は、国内の裁判所のみならず、
国際法に基づいて国際刑事裁判所で処罰することができる。
国際刑事裁判所が常設されるまでの経緯、機能と課題、
ロシアによるウクライナ侵略における役割などについて、
元・国際刑事裁判所の裁判官が語る。

私にとって難しいテーマでしたが、以下のように整理しました。
 1.国際刑事裁判所とは
 2.戦争犯罪等を裁く条約
 3.国際刑事裁判の仕組み
 4.国際刑事裁判所で裁く犯罪
 5.国際刑事裁判所の運営費
 6.国際刑事裁判の現状
 7.国際刑事裁判の課題

1.国際刑事裁判所とは
国際刑事裁判所規程(ローマ条約)で
国際刑事裁判の基本原則を規定した。
1998年採択、2002年発効、
締約国123か国だが、米、ロ、中国が未締結。
これを管轄する国際刑事裁判所(ICC)の職員は約千名。

上野注;中国やロシアは、
「侵略」を行う可能性を自覚しているのでしょう。
ですから加盟しません。
米国は、
「侵略」される被害者になると思っていませんから加盟しません。
仮に「侵略」された場合には自分の力で反撃します。
現に、9・11の同時多発テロ事件に対しては、
首謀者のビン・ラーディンを10年間かけて追跡し殺害しています。

2.戦争犯罪等を裁く条約
上掲のローマ条約以外に以下がある。
1)ジェノサイド条約
 ジェノサイドを裁く。
 1948年採択
2)ジュネーブ4条約
 1949年採択、1977年追加議定書発効
 締約国 
  196国(米国、ロシア、中国、北朝鮮!を含む)
 規定内容 
  武力紛争中(敵国領域の占領中を含む)に、
  傷病兵、捕虜、文民などに対し、
  殺人、拷問、性犯罪などの虐待行為を行ったり、
  故意に民用物や学校などを攻撃、破壊すると
  戦争犯罪に問われます。
 

3.国際刑事裁判の仕組み
寄稿文ではよく分かりませんでしたので別途確認しました。








外務省の資料です。
対象の犯罪は、各国で捜査・訴追するのが基本である。
各国が被疑者の捜査・訴追を行う能力や意思がない場合に
ICCにより捜査・訴追が行われる。
ただし、ICCが捜査や裁判ができるのは、
1)被疑者の国籍国又は犯罪の実行地国が、
 条約締約国であるか合意している場合、
2)それ以外は国連安保理が付託する場合。
と限定されています。
ということは、ロシアや中国の「犯罪」は対象とできないのです。

4.国際刑事裁判所で裁く犯罪
1)ジェノサイド
 対象とするジェノサイドとは、
 国民的、民族的、人種的または宗教的な集団
 の全部または一部に対し、
 その集団自体を破壊する意図を持って行われる殺害、
 身体や精神への重大な傷害、出生の妨げ、
 児童の強制移動などの行為を指す。

2)人道に対する犯罪
 ①殺人
 ②絶滅させる行為
 ③奴隷化すること
 ④住民の追放または強制移送
 ⑤国際法の基本的な規則に違反する拘禁その他の身体的な自由の
  著しい剥奪
 ⑥拷問
 ⑦性的暴力
 ⑧政治的、人種的、国民的、民族的、文化的または宗教的な理由
  などによる迫害
 ⑨人の強制失踪
 ⑩アパルトヘイト犯罪

3)戦争犯罪
 前掲、ジュネーブ4条約の違反行為。

4)侵略犯罪
 侵略は通常、国が主体の行為で、
 その国は国際法違反に問われますが、
 侵略犯罪とは、
 「侵略行為を主導した個人の刑事責任を問う」という
 ニュルンベルグ裁判や東京裁判で初めて登場した新しい概念。

5.国際刑事裁判所の運営費 これも外務省資料で確認しました。
各国の分担金拠出によって賄っています。
日本は最大の拠出国で、2022年に15.4%、
約30億円を拠出している。
その計算からすると、全体では195億円となります。

6.国際刑事裁判の現状
これも外務省の資料です。
2003年から始まって、10数件しかないのですね。
4番のスーダンの事案、6番のリビアの事案は、安保理の付託案件で、
それなりの意義があったと思われますが、
最後のウクライナ案件を除きますと、
他は失礼ながら小国の紛争案件です。

ウクライナ案件の帰趨がどうなるかで、
国際刑事裁判の有効性が評価されるのですが、
どうなるのでしょうか。


























7.国際刑事裁判の課題
そもそも、世界を動かす大国が割れているような状況で、
国連を含む世界的活動はまとまりようがありません。

ロシアが、「俺は侵略などしていない」と主張すれば、
他国は「そんなことはないだろう!」と言えても、
ロシアをその可否を判断する場に引き出すことはできないのです。

中国のウィグル族迫害にしても、中国が
「迫害などしていない。内政問題だ、ほっといてくれ」と言えば、
他国は非難はしても干渉はできないのです。

現在、民族紛争を除く戦争をする可能性のある
中国とロシアが参加していない当条約は
有効に機能しようがないでしょう。

そもそも、戦争を裁くというのは、東京裁判にしても、
戦勝国が戦勝国の論理で相手を断罪するのですから、
公平な裁きとはいえないものです。

ところで、国際刑事裁判所の「目的・ねらい」はこうです。
目的=前掲の戦争犯罪を犯した者を処罰する。
ねらい:そのような戦争犯罪の発生を防止する。
これは全く異論のない正論です。

しかし、その目的をどうやって実現するか
の国際的制度設計ができていないのです。
それが不十分な状態で運営しているのですから、
ICCの職員千人は欲求不満でしょう。

この論文の著者尾崎さんは、
2009年から10年間もICCの判事をしておられたのです。
よく健康で過ごされましたね!ご苦労様でした。

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