目的:
「生物はなぜ死ぬのか」の基本を確認します。
寿命延長の方法について確認いただきます。
ねらい:
ねらい:
健康寿命伸長の方法に期待したいですね。
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当テーマは、小林武彦東京大学定量生命科学研究所教授の著書のご紹介です。
純粋の自然科学書で、内容はスッキリ理解することが可能です。
本書の構成はこうなっています。
第1章 そもそも生物はなぜ誕生したのか
第2章 そもそも生物はなぜ絶滅するのか
第3章 そもそも生物はどのように死ぬのか
第4章 そもそもヒトはどのように死ぬのか
第5章 そもそも生物はなぜ死ぬのか
「生物はなぜ死ぬのか」は要約するとこういうことです。
1)生物は10億年前に多細胞生物が誕生して以来進化してきている。
2)進化は遺伝子の突然変異により起きる。
3)環境に適応しやすい方向に進化した生物が生き残っている。
4)遺伝子の突然変異は生きている生物には伝達されない。
5)したがって、環境に適応できない個体は死んで、
適応できる個体が生き延びて種を存続させてきている。
6)つまり、種の進化のために個体は死ぬ、ということである。
死は生の前提条件である。
(個体の存続よりも種の存続を優先させているのです。
鮭・セミは産卵すると死ぬ、タコのメスは子が卵から孵ると死ぬ、
交尾すると死ぬオスの生物も多い)
このことを生物学的に詳しく説明されていますので、
興味のある方は、本書をお読みください。
人間は、何度か当ブログでもご紹介した石原慎太郎さんのように
死ぬことを避け長生きしたいものですから、
その点についても本書では触れています。
【寿命を延ばす薬】
1)メトホルミン
糖尿病の治療薬として用いられている。
延命効果があることが確認されている。
健康な人が利用するには、まだ安全性と効果の確認が必要で
目下調べられている。
2)ラバマイシン
臓器移植後の拒絶反応の軽減に用いられる免疫抑制剤で
ガンの治療薬としても使われている。
この薬によって代謝が低下しカロリー制限と同じ効果がある。
動物実験では10%前後の延命効果があった。
免疫抑制効果があるため、健康人にはリスクがある。
3)SIR2遺伝子
酵母で多量に発現させると、寿命を延長する効果が確認されている。
寿命延長効果だけでなく、
体力や腎臓機能の亢進、育毛などの若返り効果が見られる。
(ただし、現段階では動物実験のレベルである)
老化細胞は、初期の段階で細胞死(アポトーシス)を引き起こし、
その後免疫細胞によって除去されるのですが、
加齢に伴って、細胞死や除去する反応が低下してしまいます。
そのため、細胞死を誘導する化合物やペプチドは、
組織の老化細胞を殺して減少させ、炎症を抑えます。
結果として老化抑制効果を示します。
その細胞死誘導機構をうまく利用した薬剤は、
老化細胞内でアポトーシスを抑制しているタンパク質を阻害し、
老化マウスの造血能力を若返らせる効果を示します。
先進国を中心に、高齢化は急速に進んでいます。
それに加え、感染症も含めた多くの病気は、
高齢で発症あるいは重症化することなどから、
今後ますます抗老化薬の研究。開発は活発化すると予想されます。
大いに期待したいですね。
次は別の観点からの長寿対策です。
[ヒトはハダカデバネズミになれるか】
ハダカデバネズミは、同じ齧歯類(ネズミの仲間)、
例えばハツカネズミの寿命が2-3年なのに対して、
ハダカデバネズミは30年と10倍ほど長く生きます。
霊長類にたとえると、
ヒトとほぼ同じサイズのゴリラやチンパンジーの寿命は
40-50年なので、
もしハダカデバネズミ並みにヒトが長生きできたとすると、
単純計算ではヒトの寿命はその10倍の500年生きることになります。
ハダカデバネズミの長生きの理由を真似して、
ヒトの寿命を延ばすことはできるのでしょうか?
(中略)
ハダカデバネズミのどこを真似したら
ヒトも同じように超長寿になれるのでしょうか。
まず低酸素、低体温、低代謝などの生理的な部分は、
(注:地下でじーっと暮らしています)
簡単に真似することは無理です。
これは基礎研究でじっくりメカニズムを解明し、
これらの生理現象と似た効果を作り出す
薬やサプリメントを開発するしか方法はないでしょう。
例えば活性酸素の発生を抑えるような薬です。
一方、社会的な変革のほうは可能かもしれません。
この点について、ハダカデバネズミから学べることは2つあります。
一つは子育て、もう一つは働き方です。
まず子育て改革ですが、
ハダカデバネズミの女王のように産むことに特化した
(注:ハダカデバネズミは群れの中の女王だけが子どもを産みます)
ヒトを作るとまではいかないにしても、
産むことを選択したカップルに社会全体としてのサポートを手厚くします。
例えば3人以上子供を作ると養育費は国が負担する。
4人目以降は養育費プラス「手当」を支給するようにして、
産みたい方はたくさん産めるような仕組み作りはどうでしょうか。
もちろん保育園の増設、保育士の増員もして
子育ての直接的な負担も分担します。
この政策は少子化にも歯止めをかけられるかもしれません。
二つ目の働き方改革ですが、ハダカデバネズミの「生涯現役」にならいます。
現在の退職後の年金を若い世代が負担する日本の仕組みは、
いつも世代間の人口バランスが取れているわけではないので、
安定した運用は困難です。
そこで世代間の負担バランスを取るためには、
歳をとってもできる仕事、やりたい仕事を一生続けられる仕組みを作る
のはどうでしょうか。
一部の企業ではすでに始まっていますが定年制などは見直し、
働ける人、働きたい人は年齢にかかわらず働けるようにするのは
いかがでしょう。
うまくいけば、生き甲斐を作り、健康にもプラスに働き、
長生きが楽しくなる社会が築けるかもしれません。
(中略)
以上は、私が考える理想論なので、
現実にはうまくいかないことも多々出てくるかもしれません。
ただ、ハダカデバネズミの多くの個体は昼寝をしています。
みんなが競って仕事量を増やし成果を競う社会から、
効率を上げてゆとりある社会に転換することが、
社会全体のストレスを減らし、
結果的にヒトの健康寿命を延ばすことができるかも、
と私は思いますが、皆さんはどう思われますか?
著者はずい分遠慮した言い方をしていますが、
二つの方向ともすでに試みられていることです。
それを動物界の最長寿動物に倣って徹底的に進めたらよいということです。
たいへん興味深い着眼ですね。
今、日本社会等が目指している方向は、
生物学的に見ても正しいということになります。
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