2017年4月26日水曜日

「仕掛学」?そんな学があるのですか!

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 仕掛学とは何かを知っていただきます。
 そう言われてみればそうだな、
 という事例を思い出していただきます。

ねらい:
 そういう目で世の中の仕組みを見てみましょう。
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仕掛学

普通にこの字を読むと、しかかり学となるでしょうね。

しかし著者はしかけ学と読ませたいのです。
それなら、仕掛け学と書いた方がいいように思います。


 
著者の松村真宏大阪大学大学院経済学研究科准教授は
仕掛けとはどういうものかを研究しておられます。

いろいろな先生がおられるのですね。

仕掛けとは

本書でいう仕掛けとはこういうものであると定義されています。

本書では、
問題解決につながる行動をいざなうきっかけになるもののうち、
以下の3つの要件からなる「FAD要件」を全て満たすものを
「仕掛け」と定義する。

1)公平性:誰も不利益を被らない
2)誘引性:行動が誘われる
3)目的の二重性:仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる


本書では、FAD要件を満たすものを「仕掛け」と呼ぶ。

一般的な意味で用いられる「仕掛け」よりも
かなり限定されていることに注意されたい。


以下でそれぞれについてもう少し説明する。

「公平性」(F要件)は仕掛けによって誰も不利益を被らないことであり、
人を欺くものは「仕掛け」の定義から外れる。


上述した「悪い仕掛け」は公平性を欠くので、仕掛けとは呼ばない。

「誘引性」(A要件)は行動を「誘う」仕掛けの性質のことであり、
行動変容を「強要」するものは仕掛けの定義から外れる。


この要件を満たす前提として、仕掛けが行動の選択肢を増やしていること、
および私たちが自分の意志で自由に行動を選べることが必要である。


その上で仕掛けによる行動の選択肢を選んでもらえれば誘引性が
あったと判断できる。


誰からも見向きもされない仕掛けは誘引性が足りないのである。

「目的の二重性」(D要作)は、仕掛ける側の目的(解決したい問題)と
仕掛けられる側の目的(行動したくなる理由)が異なることであり、
この二重性のないものは「仕掛け」の定義から外れる。


多くの場合、仕掛けが対象としている本当の問題は明示されていないので、
問題を意識することなく興味の赴くままについ行動してしまう。


中には仕掛けと本当の問題の関係に気づく人もいるが、
良い仕掛けであれば仕掛けの価値を高めることはあっても
人を遠ざけるものにはならない。


「仕掛け4」の駐輪場の線や「仕掛け8、9」のトイレの的のように、
利己的な目的と利他的な目的をつなげることも可能である。


これらの仕掛けのFAD要件は仕掛けられる側に明示的に意識して
もらうものではないので、気づかないことも多い。


しかし、いったん仕掛けの考え方が身につくと
身近な仕掛けに気づくようになる。


著者が気に入っている身近な仕掛けは
「仕掛け11」のホームベーカリーである。


夜寝る前に強力粉250g、バター10g、砂糖17g、スキムミルク6g、塩5g、
水180m、ドライイースト2.8gを入れて予約タイマーをセットすれば、
朝の指定した時間にパンが焼きあがる。


そのときにとてもいい匂いがするので心地よく目覚められる。
しかもパンは焼きあがるとすぐに取り出さないと縮んでしまうので、
眠くてもがんばって起きなければと奮い立たせてくれる。


誘引性は抜群である。

がんばって起きた結果、焼きたてのパンが食べられて嬉しいだけでなく
目覚まし時計としても機能するので目的の二重性も満たされている。


ホームベーカリーを使っても誰も損をしないので公平性もある。

このようにホームベーカリーはFAD要件を満たしているので、
仕掛けといえる。


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著者が気に入った事例を写真入りで多数紹介されています。
 
写真は著作権が面倒ですので掲載しませんが、
以下のような事例です。

1)駐輪場の斜めに引かれた線(はみ出しにくい)
2)男子用公衆トイレの便器に書かれた的の絵(そこを狙う)
3)バスケットゴールの付いたごみ箱

4)ごみを入れるとしばらくして衝撃音のするごみ入れ
5)小さな鳥居または鳥居の絵(そこにおしっこをかけない)
6)消費カロリー表示の付いた階段

7)お立ち台が前に付いた大型ディスプレイ
8)コインスライダーの付いた募金箱
9)丸くなく三角に巻いてあるトイレットペーパ
  (スルスルといかずにガタンガタンとなるので消費量が減る。
   なるほど!!)

仕掛けの原理
 
仕掛けはこういう原理を使って成り立っているという解説です。
事例付きで解説されていてたいへん分かりやすくなっています。

▼クリックすると拡大します▼
 


 仕掛けの発想法
 
以下の解説がありますが、極め手はないようです。

1)仕掛けの事例を転用する
2)行動の類似性を利用する
3)仕掛けの原理を利用する

関心のある方は是非本書をお読みください。

結び
 
たいへんいいことが書いてありました。
同感です。
 
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人が努力しなくても技術で解決できるなら、
それほど楽なことはない。


しかし、各人がちょっと気をつければ解決する問題の
解法としては大げさすぎて、実現可能性は低い。
 
技術だけに頼るのではなく「つい分別したくなる」
ように誘う仕組みこそ実現可能なアプローチになる。
 
百歩譲って自由に動きまわって問題を解決するロボットが
開発されたとしても、総合的に見ると今のところ人間のほうが
圧倒的に優れている。
 
目は環境や物体を正確に認識し、足はどこにでも自由に
移動することを可能にし、手は複雑な操作をこなす。
 
人間なら極めて簡単にこなせることでロボツトには難しい
ことがほとんどである。
 
人間はこれまでの人生で培った知識と経験も持っているので、
身体能力だけでなく総合的に物事を判断できる能力も優れている。
 
とどのつまり、機械に頼っても大したことはできないし、
壊れるし、何より膨大な金銭的コストがかかる。
 
人が立ち入れない危険な場所での作業や工場のような
単純作業、介護現場のような肉体的負担の大きい現場を除けば、
今のところはメリットよりデメリットのほうがはるかに大きい。
 
実現可能性を考えると、機械に頼るところは必要最小限に留めて
行動を誘うことに注力するのは一つのアプローチであろう。
 
仕掛けを作る際には、ハンマーにとらわれて(注)本質を見失って
いないかを常に心に留めておくべきである。



注:「マズローのハンマーの法則」
 ハンマーを持てばすべてが釘に見える、のことを指しています。
 
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私は以前から仕組みと仕掛けを対比させていました。
業務の改善をする時には「仕組みではなく仕掛けにしろ」
と言ってきたのです。
 
仕組みは「こうしよう」と設計して作るものです。

しかしながら、人はそのとおりにしないことがある、
またはしないことが多いのです。
 

それに対して、仕掛けにすると、
そうしないようにはできないのです。

業務系の情報システムは、仕掛けです。
しごとの方法が徹底できます。

それでは、この業務系システムは
著者の仕掛け要件を満たしているかどうか
チェックしてみます。

1)公平性(誰も不利益を被らない) 
  この条件は満たしているでしょう。
  会社にとって
  そのシステムが不利益になることはないでしょうし、
  本人にとっても、
  そのシステムが気に入るかどうかはあっても
  不利益にはならないはずです。
 
  この項目は○でしょう。


3)目的の二重性
  (仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる)
  仕掛ける側=会社側の目的は業務の効率化・品質向上です。
  
  仕掛けられる側=業務実施者、
  通常は会社側の目的が業務実施者の目的にも合致するでしょう。
  異なる目的があるとすると「考えなくてよいので楽」
  ということでしょうか。

  この項目は△でしょう。
  
2)誘引性(行動が誘われる)
   
    業務系の情報システムは誘われて従うものではなく、
  「それしかない」強制です。
  業務系の情報システムは「それしかない」ようにすることが
  目的ですから誘引ではありません。


   この項目は☓です。


そうすると、我々が仕掛けといってきたものは
著者の基準からすると仕掛けに合致しないということになります。


ここで、情報システム改善のヒントが得られました。
利用する人が楽しいようにシステムを作れば、
システム利用上のミスも減らすことができるのかもしれません。  

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