[このテーマの目的・ねらい]
目的:
日本経済再生の決め手は地方の産業を興すことだという
冨山氏の体験に基づく主張を聞きましょう。
ねらい:
地方の活性化に尽力しましょう。
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著者冨山和彦氏は凄い方です。
まず以下の略歴をご覧ください。
1985年東大法学部卒業
ボストンコンサルティング・グループ
スタンフォード大学でMBA取得
コンサル会社「コーポレイト・ディレクション」社長
2003年産業再生機構COO担当
2007年コンサル会社「経営共創基盤」設立CEO就任
因みに、産業再生機構は4年間の活動期間で
41案件を支援したが、3分の2は地方の百貨店、バス会社、旅館など
地域密着型の会社だったそうです。
経営共創基盤はその100%出資子会社で
岩手県、福島県、茨城県、栃木県、鎌倉市の
バス会社やモノレール会社を傘下に収め経営再建に取り組んでいます。
また、AI産業にも乗り出して
リクルートが配信する「受験サプリ」(AIが家庭教師になる)などにも
取り組んでいます。
冨山氏は実業家でもあるのです。
一般に、私を含めコンサルタントは、
他人のことはよくわかり指摘・指導しますが
自分のことはうまくできないのです。
大金持ちになった競馬評論家や株式営業もいないようです。
ところが、冨山さんは
地方のバス会社の経営をして軌道に乗せているのですから脱帽です。
本論も明快です。
経済・産業の世界には
グローバル(G)とローカル(L)という
全く別の世界があると言われます。
Gの経済圏とは、
貿易財を扱う製造業やIT産業などで、
この領域は世界市場で常に激しい競争に晒されていて
世界規模で「規模の経済性」が働きます。
そのため資本集約的になり、
高度な設備と技術集積を持つ企業が有利です。
生き残った企業の労働生産性は
世界トップクラス(よって高賃金)です。
ただし、
Gの領域の企業は生産拠点を世界最適地に建設するため、
必ずしも自国に大量の雇用を生みません。
自国で雇うのは国内上位数%のエリートだけです。
また、海外で生産する限り、
自国のGDPにも寄与しません。
これらの企業が自国に残すのは本社機能、研究開発、
マザー工場のみです。
その結果、日本の高度成長時代には、
中小企業が大企業の下請けでそれなりに存立できましたが、
今や、生産拠点の海外移転で下請けの恩恵には与れません。
Lの経済圏とは
非製造業やサービス産業などです。
この領域の多くは労働集約的なので、
雇用を生み出しやすく空洞化しにくいのですが、
一方でサービス内容の善し悪しや価格の高低よりも、
「自宅から近い」「他に利用できる店(交通機関)がない」
などの理由でサービスが選好されます。
その結果、企業は生産性を上げる努力をするより、
地域で濃密は寡占構造を作る方が儲かります。
これを「密度の経済性」と言います。
そのため労働生産性が上がりにくく(よって低賃金)、
競争の不完全さ故に
生産性の低い企業やサービスの悪い企業も生き残ります。
GとLの大きさ
グローバル化が進展して、
今や日本の製造業全体がGDPや雇用に占める比率は3割未満です。
(中小企業を含めても、です)
日本のGDPと雇用の7-8割を占めるのは、
地域密着型のサービス産業です。
こうしたローカル企業の多くは労働生産性が低く、
非正規雇用も多く賃金水準も上がりません。
ここに現代の格差問題が生まれる構造的要因があります。
GとLの日米欧の労働生産性比較
Gの経済圏に属する製造業では日本の労働生産性は
世界のトップクラスです。
しかしLの経済圏に属するサービス業では、
日本の労働生産性はアメリカの半分で、
ヨーロッパと比較しても低水準です。
Gの経済圏の成長戦略(本稿の主題ではありません)
資本の生産性を高めること(詳細省略)
新陳代謝を早める(ダメな事業を早く見限る)
事業・経営ルールを世界基準に統一(詳細省略)
Lの経済圏の成長戦略のテーマ
新陳代謝による労働生産性と賃金の持続的上昇です。
日本ではこの世界の新陳代謝は極めて少ないのです。
しかし、M&Aによる新陳代謝を行えば生産性が上がることは、
経営共創基盤がM&Aによって運営するバス会社の事例が
示しています。
4年で収益は倍以上、賃金は11%上昇し、
設備投資も実施できているのです。
(上野)いかに経営改善の努力がこれまで行われてこなかったか、
ということを示しています。
違う目で見て、その気になってアタマを使えば改善は必ずできるのです!
これに関連して、
日本企業の現状維持、無改革性について連想したことがあります。
1)ある大手電気工事会社で
半年で23億円の改善利益を実現した当社のコンサル
2)「現状のソフトウェア保守業務は
徹底的に改善すると2倍の生産性にできる」
と当社が主張しているのに誰も真剣に取り組まないこと、
などです。
Lの経済圏、成長戦略の挑戦課題
要点をご紹介します。
1)スマート・レギュレーション(賢い規制)
サービス産業の最大の業種は公共サービスです。
交通、医療、介護、保育などです。
現状で規制が非常に多いのですが、
大切なのは既得権益保護に繋がる参入規制は緩和し、
最低賃金・労働基準監督・安全監督などにかかわる規制は
強化することです。
(本稿の基になる講演時には、
草津のバス事故は発生していませんでしたが、
「安易な規制緩和をするとバス事故が多発する」と述べておられます)
2)コンパクト・シティ化で消費密度を上げる
地方の人口30万ー50万人の中核都市のターミナル駅周辺に、
人口、都市機能、生活関連のサービス産業を集約する。
そうしないと産業の生産性が高まらない。
(もともと、日本の人口はそれなりに地域で集まっていたのを、
戦後の引揚者と空襲で焼け出された都会の人々が
過疎地に済むようになったものなので
原点回帰すればよいのだと主張しておられます)
3)中央に偏在する人材を地方に還流する
江戸時代までは地方に優れた人材がいた、
維新で一挙に中央集中になってしまった、
元に戻す政策をとるべきである、ということです。
4)一般大学を高度な職業訓練校へ転換する
日本の高等教育は
大企業で働く偏差値エリートを想定してきました。
しかし、今や大企業で働く人の比率は10%台で、
圧倒的多数は中小企業で働いています。
そんな彼らの技能を向上させ、
プロ意識とやりがいを持たせ、
労働生産性と賃金を上げ、雇用を安定させるために、
大多数の大学と学部を
「プロフェッショナル人材を養成する実学専門の職業訓練校」
に改変することが必要です。
一方グローバルで通用する高度な人材の養成は、
東大など一部のトップ校に限定するべきです。
日本以外の先進国は、
どこも基本的にこのような二山構造になっています。
(上野)なるほど、それが現実的な対応策かもしれないと思いますが、
強い抵抗勢力もあるでしょう。
下村文部科学相だったら取り組んだでしょうかね。
5)ゾンビ企業を生き残らせる制度を廃止する
現在の信用保証制度は、
市場から退出すべき企業の延命に利用されている。
信用保証協会はローカルな経済圏で中小企業が
穏やかに退出することの足枷になっています。
ゾンビ企業が自ら退出を願っても
保証協会は絶対に債務免除に応じませんし、
経営者が個人保証をしていれば自己破産を要求してくるので、
企業は延命せざるを得ません。
今後はゾンビ企業の延命にではなく、
「転廃業支援金」「事業譲渡促進支援金」などの名目で、
彼らの円満な退出にお金を使うべきです。
地方創生が持続的創生となるために
現在地方から都市に人口が流れるのは、
地方に有力な職場がないからです。
しかし若者が都市に出てきても年収は200万円台なので
夫婦で働いても400万円程度にしかなりません。
これでは子どもを産み育てていくことはできません。
東京は日本で最も出生率が低い都道府県です。
そこで地方で世帯年収500-600万円で
やりがいのある仕事が供給できれば、
若者は地方に留まり、地方で就労、結婚、子育てをするはずです。
地方創生のリアルな課題は、
「平均的学力の若者の年収を、
200万円から300万円に上げること」です。
(上野)㈱経営共創基盤は小規模ながらその実現をしているのです。
こういう意見も開陳されています。
なお、近年観光業が脚光を浴び「おもてなし」と盛んに言われますが、
弊社が旅館再建を多く手掛けてきた経験から言うと
お金を取らずにおもてなしをしてはいけません。
Lの経済圏の就業者の労働生産性をさらに下げるからです。
これは経営者の責任です。
(なるほどごもっともです。実践結果での発言ですから重みがあります)
これからの産業の発展方向
IT化の進展、特にAIの発展により、エレクトロニクスの世界で起きた
スマイルカーブ現象が、
自動車、重電、農業、医療などを含むすべての産業領域に拡大する
と予想されます。
そうすると製造業は、
川下のニーズを把握して製品企画に活かして事業展開するようになる、
(製造機能はキーコンピテンシーではなくなる)
サービス業も
技術装備率を高めて付加価値を高める事業展開する企業が生き残る。
私個人は、
新興のコンピュータ企業ではなく伝統ある大手製造業こそ、
新時代に相応しい経営方式を生み出すと思います。
と述べておられます。
最後の点について、私は全面的には賛成しかねます。
抵抗勢力に打ち克つ経営者の革新マインド次第でしょう。
結びはこうなっています。
千載一遇のチャンス到来
人口減少は世界の先進国共通の課題ですが、
日本がその最先端です(周知の事実)。
日本の地方は、
人手不足ですが移民の受け入れは少なく、
高齢化とエネルギー災害という問題も抱え
まさに「世界の課題の最先進地域」です。
日本には高度な技術基盤や研究機関もあるので、
今こそイノベーションと生産性革命の絶好の機会と思います。
新しいビジネスの好機は地方にあります。
コマツの無人運転の管理システムも、
建設業界の人手不足に対する解決策として生まれたものです。
医療や介護の分野でもイノベーションが起きれば、
今度はそれが世界に売る商品になります。
Lの経済圏で生まれたサービスや商品が,
Gの経済圏を席巻するのです。
Lの経済圏で革新を実現している著者の発言ですから
説得力があります。
冨山氏の言われる方向を産官学挙げて実現すべきですね。
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